先生が結婚していた、と聞いてからはしばらく何に対してもやる気が起きなかった。学校の授業は集中出来ず、友達といても心ここにあらず、家へ帰ってもぼーっと考え事をするだけ。今まで経験したことのない無気力さだった。

 それでも誰かがそばにいる時はまだ良かった。学校から帰る時だったり、夜寝る時だったりと一人にならざるをえない状況になると自然に涙が溢れてくるのだ。人の前では必死で泣かないよう我慢しつづけるものの、誰もいなくなってしまうと途端に涙腺が緩む。泣いても泣いても終わりが見えない・・・一気に寂しさと孤独感が襲ってくるような気がした。


 自分だって先生を裏切っていたくせに、あまりのショックからいつの間にか先生の裏切りが大きく心を占めるようになっていった。そして、やがて悪いのは先生だと考えるようにさえなってしまう。その状態は去年の春ぐらいまで続いていた。

 ようやく客観的に見られるようになったのはつい最近。自分を棚に上げて都合のいいように取っていたと言われても仕方がないと思う。でもこれだけは分かって欲しい、そうでもしないと心がバランスを保てなくておかしくなりそうだったのだ。いろんな想いが錯綜して既にごちゃ混ぜになっていたから。心を支えていた一番重要な柱がぽっきりと折れて、大きな穴が開いてしまったような感じだ。そこに冷たい風が吹いては、虚しさだけを残していった。


 なにより、本人の口から何も聞かされていないというのが一番堪えた。あれから毎日電話をかけてはいたものの、一向に出てくれる気配はなし。それどころかかけ直してくれることもなかった。問い詰めたいことはたくさんある、でも声を聞くことさえ叶わない。どうしたらいいのかわからなかった。


 そんなある時ふと思い立って、私は夜の中学校へ出向いた。小雨の降る肌寒い日だった、しかしもちろん先生がいるはずはない。もしかしたらという気持ちだけでここまで来たものの、得られたのは何もなく、結局「こうしている間に先生は担任と二人で過ごしているんだろう」という悔しさにも憎しみにも似た想いを感じるだけだった。携帯にも一応電話してみたものの、出る気配すらなかった。


 小雨は止むことなく、ただ静かに、しっとりと降りつづけている。この雨に打たれて、彼との思い出を綺麗に洗い流せたらいいのに・・・


 悔しくて、悲しくて、それでももう1度会いたくて・・・涙が止まらなかった。この気持ちを、一体何処に向けたらいいんだろう。私は、これからどうすればいいんだろう?


  <続く>