その日は、雨が降っていた。決して強くない、だけど何処かもの哀しい小雨が降っていた。


 私は夜、「近くのコンビニに行ってくる」と親に嘘をついてある場所に向かっていた。そうやって思わず家を飛び出してきたものの、自分でも何をしたいかわかっていない。ただ・・・彼に会って話が聞きたいという想いが私の足を、身体をつき動かしていた。


 自転車のペダルを力の限りこいで来たところは、半年前に卒業したばかりの中学校。そう、彼と三年間の学校生活を共にした場所、そして彼への思い出がいっぱい詰まっている場所だ。


 学校から少し離れた場所に自転車を停める。中学校には当然明かりはついていない。先生方の車も一台もない。わかっていたことだけど、思わずため息が漏れた。


 信じていた。いや、先生のことが本気で好きだった。だからこそ、数日前起こった出来事が未だに実感がわかない。それどころか頭で理解することを拒否している。


 ポケットに入っていた携帯電話を取り出して、彼の携帯に電話をかける。しかし、やはり繋がらない。もう3日もこんな状態だ。せめて彼の口から聞くことができたらどんなに楽になることだろう。はっきり言われた方が、諦めもつくと思うのに。


 小雨は一向にやむ気配を見せない。ただ静かに、しっとりと降りつづけている。この雨に打たれて、彼との思い出を綺麗に洗い流せたらいいのに・・・そう思った。

 再び自転車をこぎだして、私は家へと向かった。


『裏切られたんだ。』


 漠然とした感情の波の中で、たった一つだけ形を持ったその事実が、流されることなくそのまま心の砂浜に取り残されていた。


  <続く>