4月上旬。私は晴れて希望していた高校の一年生になることができた。新しい制服、新しい靴、初めて会うクラスメイト、そして高校の先生達。最初は何もかもが初めてで戸惑いを隠せなかったものの、時間が経つうちにだんだんと打ち解けることができた。
元々中学校を早く卒業して高校に行きたいと願っていた。中学には良い思い出もたくさんあったが、逆に悪い思い出もたくさんあって、印象が深かった悪い出来事が中学のイメージさえ悪くしていたのだ。だから、ほとんど知人がいない新しい環境で、学校生活を変えていきたいと思っていたのだ。
運良く私が志願した高校は倍率が市内で一番高く、同じ中学の同級生はほぼいなかった。自分が快く思っていなかった人たちはほとんど落ちてしまっていたため、都合が良かった。
新しいスタートは順調かのように見えた。でも、ここからが自分にとって辛い時期であり、それがしばらく続くことになる。
学校や授業に慣れてくると共に、彼への想いや寂しさが募ってきた。今までほぼ毎日顔を合わせてきただけに、極端に会えなくなるのは辛かった。しかも、あれからたまに電話してみるものの、今までずっと留守電でまともに出てくれたことがない。かけ直すことさえしてくれない先生を恨んだかと言えば、全然そんなことはなく・・・
『きっと先生は忙しいんだ。だから仕方が無い。』
ひたすら自分に言い聞かせていた。そうでもしないと我慢なんてできるわけなかった。
ある日の夕方のこと。
思い切って高校の帰りに、中学校に寄ってみようと放課後自転車を走らせた。卒業生は高校に入ってからちょっとの間、中学校に遊びに行くことが多い。私は中にまで入るつもりは無かったが、せめて部活の指導をする先生の姿さえ見られれば・・・と思った。
姿を隠せて、グラウンドを臨めるようなところに自転車を止めた。まるでストーカーのようだが、知り合いに見つかってとやかく言われたくはない。グラウンドで彼の姿を探した。
『いた…。』
部員の生徒と走り込みをしている、懐かしい先生の姿。受験生の時はほとんど見られなかったので、ひどく懐かしい気がした。
少しの間黙って見ていると、今まで感じていた寂しさが一層大きくなっていくような気がした。心が切なくて、痛い・・・学校を卒業してまだ一ヶ月もたってないのに、こんなに遠い存在に感じてしまうなんて・・・
自転車をこいでその場を後にした。自分の寂しさは限界に近づいている・・・今度の土日、だめもとでもう一回電話をかけることを決意しながら。
<続く>