「先生、襲っちゃうかもよ?」


 この人何言ってるんだろう、という困惑に混じって「ついに来たか」という思いが湧き上がってきた。瞬時に脈拍が速まる。指先から足元まで一気に電流が駆け抜けたように、身体がじんじんする。前に押し倒されたときのことが頭の中で蘇って来た。


「私は、別に構いませんけど。」


 今思えばもう少しましな返し方が出来なかったのかと恥ずかしくなるが、当時私は何にも知らない中学生。冷静を装うかのように話してみても、電話を持つ手には汗が滲んでいた。胸の高鳴りが治まらない。大体、どうしていきなりストレートに言ってくるのだろう。またいつものように冗談を言って私をからかってるのか、それとも・・・


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 今日の午後のこと。ようやく週末がやってきたので私は携帯を手にとって、彼に電話をかけようと午後になるのを待った。恐らく、午前中に電話をかけても部活か何かの取り込み中で電話には出てくれないだろう。だったらまだ午後にかけた方が望みはある。


 午後4時半。祈るような気持ちで電話番号を押した。コール音がカウントダウンに聞こえてくる。一回、二回・・・と心の中で数えていると、三回目の途中で途切れた。


「もしもし?」


 ようやく、彼が電話に出てくれた。


「先生!今日は忙しくないんですか?」


「先生はいつも忙しいよ(笑)」


 冗談めかした口調で先生が笑う。


 ふと思い出した、「先生暇ですか?」と聞けば「暇なわけないじゃんか~」などとやりとりしていたことを。時間さえあれば先生と一緒にいたいと思っていたあの頃。今ではもう、それは叶わない。あの日々さえも帰ってこない。在学当時はただ卒業したいとばかり思っていたが、いざ卒業してしまえばやはり寂しさがこみ上げてくる。


「そっか~、最近会えなかったから今日もし暇なら会いたかったんですけどね・・・」


 いつも「寂しい」と言っては「会いたい」を切り出しているから、今日こそは言わないつもりでいたが、我慢できなかった。自分の思ってたことを素直に口にしてしまった。今まで、寂しくても先生を困らせるような発言は極力避けてきた。わがままだとか思われて、別れたくはなかったのだ。


「会っても、いいよ。」


 ゆっくりと先生はその言葉を口にした。「いいんですか!?」と聞き返す前に、彼は続けてこう言った。


「だけどね・・・」


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 私は今、学校の前にいる。この中で、きっと先生が待っている。これから起こることが何なのか、想像しただけで焼けるぐらい身体が熱くなる。でも、彼は私の好きな人。不安ではあったけど、嫌だとは思わなかった。むしろ私は、この時を待ち望んでいたのかもしれない・・・。


 玄関から学校に入った。日も暮れて校内は薄暗い。物音一つせず、聞こえてくるのは自分の足音だけだった。上の階に行こうと、玄関前の階段に足をかけた。 


 <続く>