階段を上りきって、いつも会っている教室の中に入るとまだ先生は来ていなかった。カーテンを閉め切っているその教室は真っ暗。とても学校の中とは思えない。壁に寄りかかって、先生が来るのを待った。


 遠くの方から足音が聞こえてくる。


 頭が真っ白になってもう何も考えられない。初めて先生に学校で抱きしめられた時のことが、唯一思い浮かんできた。あの時は膝がガクガクするほど緊張で震えていたが、今はそれほどではない。いや、もしかしたら前以上に緊張してて、頭が働かないのかも…


 足音がすぐ近くに来たかと思っていると、急に止まったのでびっくりした瞬間ドアが開いた。


「先生・・・」


 こちらを向き少しだけ微笑んでドアを閉めた。頭の中がからっぽで、先生の口が開き何かを言ってるようなのだがさっぱり耳に入ってこない。ただ会話に合わせてうん、うんと相槌を打つことしかできない。手に汗がにじみ、かくかくと軽く震えた。
 
 楽しい出来事は今まで書いてきたようにちゃんと覚えているのだが、この日の出来事はおぼろげながらにしか覚えていない。


 ふと、会話が止まって見つめあう形になった。一秒一秒が長く感じられる。彼が、私の腕をつかんで自分の方に引き寄せた。いつものように抱きしめられる形になる。嬉しいはずなのに、何故か不安があった。


 ここからはまるでスローで場面を再生するかのごとく、時が流れていく。


 前のように彼に押し倒されて、気づいたらキスされていた。抱きしめられるだけで、キスさえまだだったのにあっという間だった。しかも初めてのキス。唇に軽く触れられるようなものじゃないことに、私はかなり戸惑った。自分の口の中で、彼の舌が何かをまさぐるように動く。どうしていいかわからなかった。もちろん、抵抗さえできない。


 そうしているうちに彼の手が服の中へと伸び、胸に触れると撫でるように手を動かした。やがて5本の指が自由に動き出して、揉む仕草へと変わっていく。本で見たような行為を今、目の前で自分がやられている…。まるで想像の世界にいるような感じに陥った。


 次第に上半身の服の中に先生がもぐりこんだかと思うと、乳首の辺りを吸われたのがわかった。くすぐったいような、それでいて何だか変な感じがする。それは少しずつ「気持ちいい」という感情に変化していった。こんな風に感じている自分が急に恥ずかしくなって、顔面が燃えるように熱くなった。

 何かの本で見たようなことを、忠実に先生にされている感じだ。すごく恥ずかしいけれど、期待のようなものもあった。


 そうやって愛撫をされてるうちに、先生の指が自分の中に入ってきた。


「んっ・・・。」


 思わず声が出る。自分で触ってもいないのに、濡れてるのが明らかにわかった。


 普通はここまで来たら最後まで行くのが当然だと思っていた。色んなところを触られながら「今日で私、大人になるのかな」なんてばかばかしいことを頭で考えたりもした。だけど、先生はやはり最後までどんな行動に出るかわからない。


 暗闇の中で先生が手を止めて、何やらごそごそしているのがなんとなく感じ取れる。一体何をしてるのかと、自分の頭の中で思いを巡らせていると彼に腕をつかまれた。引き寄せられた時、右の頬に何かが当たった。なんだろう、よくわからない。


 そこから一瞬の出来事のように感じた。自分の口の中に何かを含まれて、自分の意志とは関係なく先生にされるがまま。詳しく書かなくても、何をされたかぐらいはわかるだろう。ただ、当時の私はそれを知らなくてずっと混乱しっぱなしだった。本では見たことないようなことを、やらされている・・・


「イクよ・・・」


 囁くような先生の声。え、と聞く間もなく口の中に生暖かい液体が流れ込んできた。『どうしよう』と先生の方を見たが、彼は何も言ってくれない。・・・飲み込むしかなかった。


「飲んじゃったんだね。」


 いつものような笑みを浮かべながら、彼は私の方を見てこう言ったのだった。


 最後までいかなかったことに疑問を持っていたが、その疑問を彼にぶつけることもできずに帰る時間となった。すっかり暗くなってしまった廊下を歩いて、玄関に靴を取りに行った。


 廊下に続く暗闇。これからを暗示していることも知らず、私はその方向へと歩き始めていた・・・


  <続く>