あの日を堺に、私達は「一線」を越えてしまった。


 こんな書き方をすれば勘違いする人もいるだろうが、抱き合って一つになったという意味の「一線」を指しているのではない。互いの心の中で、ある境界線を越え少しずつ気持ちが変化していったという感じである。だがそれは2人に同じ心情をもたらすことはなかった、むしろそれぞれ違う方向へと変化していったのだ。


 一度狂ってしまった歯車が、もう元には戻らないように。


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 高校生になって2、3ヶ月が過ぎたが、先生に会える機会は1ヶ月に1回と激変してしまった。電話もせいぜい1ヶ月に2、3回ほどしか繋がらない。極端な減少が私にとってはとても辛かった。


 貴重な先生とのデートでは、彼の車で海や湖に連れてもらったりした。聞こえはいいかもしれないが、実際市内のデパートや飲食店に行けば誰かにばれてしまう可能性があるため、ちょっと車を使って遠出しなければならないだけのこと。普通の恋人のように、食事に行ったり買い物に行ったりすることが一切出来ない。

 しかし、当時の私は会えるだけで本当に嬉しかったのだ。もちろん男の人と付き合うのが初めてだったから、デートがどんな風なのかまだちゃんと理解できてないのもあったと思う。今考えれば、会うことにどれだけ貪欲だったかというのがよくわかる。


 一方先生はあの出来事の後、我慢が利かなくなったかのように会う度体の関係を求めてきた。それなのに、どうしても最後の段階に行こうとはしない。前は気を遣って最後まで行かなかったのだと思っていたが、どうやら違う様子。私にはわけがわからなかった。それらしいことを毎回しているのに、何故先生は思い切ってくれないのだろうと。

 何だか焦らされているようで、とてももどかしかった。だけど、正直な気持ちを口に出して伝えるのは恥ずかしくてできない。どうしたらいいのだろう・・・


 そんな日々を過ごすうちに、いつの間にか無意識に寂しさが溜まっていったのだろうか。限界の「境界線」を越えて、思わぬ行動へと出る自分を止めることができなかった。
 


 高校生になったと同時に携帯電話を持たせてもらった私は、当時流行っていた出会い系サイトをちょくちょく覗くようになった。最初はほんの興味でしかなく、メル友なんか怖くて作れないと思っていたのだが・・・高校を卒業し、先生にもなかなか会えなくなって寂しさが募っていたせいだろうか。ちょっと見て終わりにしようと思っていたはずが、ある日ふいに掲示板に書き込みしてしまった。別に大した意味はなく、寂しいときに話せる友達でも出来たらいいなという軽い気持ちだったことは言うまでもない。


 それから何時間かして、簡単にメル友ができた。書き込みは結構来ていたのだが、その中でも同じ青森県の男の人が目を引いたため、その人に返信することを決めた。


 それが、次の彼氏との出会いだった。


 相手は私よりだいぶ年上。初めにちょこちょこメールを交わすうちに、彼は私のことを気に入ってくれたようだった。私自身メル友に抵抗はあったものの、かまってもらえない先生とは違い毎日メールをくれた彼にあまり抵抗はなかった。彼も私を妹のように扱い、可愛がってくれた。


 夏のある日のこと。


「ちーに会ってみたいな。」


 私達がメールのやり取りをし始めて一ヶ月くらい経った日のこと。彼の方からこうメールが来た。ちーとは私のあだ名のことである。


「うーん、でもなぁ・・・」


 さすがに迷った。相手は見ず知らずの人、友達に会うのとはわけが違う。下手すれば何が起こるかわからない、でも、自分自身がすでに寂しさの限界だった。先生に悪い気はしたが、自分の行動を止めることが出来ない。


「わかった、いいよ。いつにしようか?」


  <続く>