皮肉にも、その事実はメールの彼とのデート中に知った。9月に入って間もないある日だった。


「あのね、さっき聞いたんだけど・・・先生が、先生が結婚したんだって!」


 上手く頭が回らない。一拍置いて、ようやく「はぁ?」とだけ聞き返すことができた。何言ってるの、先生とはついこの間会ったばかりだよ?と、心の中で何度も繰り返しているのに声にならない。


「今日、学校で先生から発表があったらしくて・・・妹は授業の最後に聞いたって。先月末からもう籍を入れてるらしいの。」


 友達が電話口で慌てたように話す。私はというと、携帯から聞こえてくる事実を一つ一つ頭に残すだけで精一杯だった。内容の意味は未だ理解できずにいる。いや、受け入れられないとでも言うべきだろうか。信じられない、信じたくない。だけど、思い当たる節がないわけでもなかった。


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 あれは、高校に入学して1ヶ月も経たない頃だっただろうか。たまたまその日は親が帰る時に車で迎えに来てくれたので、ついでに買い物も行こうということになったのだ。スーパーへ向かうその途中に、事件は起こった。

 そのスーパーへ行く道路の近くに、ある人物が住んでいると前に聞いたことがあった。たまたま今回その道を通ったので、家があろう場所を何気なく見つめていたのだ。尋ねて行ったことはないが、住所は知っていたので大体の場所は見当がついていた。車でそこを通り過ぎようとしたとき、思わぬ光景を目にすることになった。


『え!?』


 見覚えのある車がその周辺に止まっている。私が間違えるはずはない、あれは確かに先生の車。


『どうしてここに・・・?』


 急いでナンバーを確認しようとしたが、気が動転していたせいか見逃してしまった。胸騒ぎがする。今すぐ電話して先生に確認したいと思ったが、親が一緒にいるため出来なかった。

 それから数日後、ようやく電話が繋がった先生にその事を問いただしてみた。何故あそこに先生の車があったのか、何をしていたのかと。ナンバーまで見たわけではないから同じ車の別の人という可能性もあったのに、あっさり先生はそこにいたことを認めた。


「他の人と一緒に、引越しの手伝いをしていたんだよ。」


 私が見ていなかっただけで、他の人もいたんだということを先生は説明した。本当かどうかわからなかったが、何せちゃんと見ていないので疑おうにも疑えない。何より、本当のことを知るのが怖かった。知ったところでどうしていいかわからないし、自分が狂ってしまうような気がした。


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「相手は・・・」


「え?」
 
 声を振り絞って、聞いた。聞きたくないけど、この状態では避けられそうにない。


「相手は誰?」


 友達はゆっくりとした口調で、こう言った。
 
「うちらの元担任だよ。」


  <続く>