「試しに会ってみよう。」


 初めはそんな軽い気持ちで行ったはずなのに、いつの間にか誘いを断らずに受けている自分がいた。


 『今週も会いに行っていいかな?』


 メールでの会話の途中、彼から誘いが来た。当然私の方に断る理由なんてなかった・・・


 『いいよ。』


 彼とのデートは一回だけに留まらず、互いの予定が合えば休日でも放課後でも会うようになった。例え放課後の短い時間でも、彼は2時間もかけて会いに来てくれる。それほどまでに自分のことを好いていてくれたんだろう。嬉しい反面、罪悪感が頭の中をよぎる。


 デートをするのはもちろん先生に連絡が取れない時だ。週末携帯電話を鳴らしてみても、折り返し電話がかかっくることは滅多になかった。自分から切った時に流れる「ツー、ツー、ツー・・・」という音が、余計に寂しい気持ちを掻き立てるのだった。


 最初は買い物に行ったり、ドライブに行ったり話したりとごく普通の恋人と変わらないデートをしていた。先生とは願ってもできないデート。彼と会うときは先生のことをあまり思い出さないのだが、「こんな風に先生とデートできたらなぁ・・・」と考えることはしばしばあった。
 しかし、それもつかの間。次第に彼とは身体の関係も発展していった。最初は抱きしめてキス、そこから身体に触れ合うことも度々。彼は先生と違って、順番に従い私に快感を教えてくれた。自分の身体の何処に触れられると気持ちがいいのか、また相手は何処がいいのかを身体で理解させてくれる。体験したことのない甘美な時間に取り付かれたように、私は彼に会わずにはいられなくなった。


 先生のことを好きでなくなったとか、そういうわけではない。相変わらず彼に恋愛感情は持てずにいたし、先生のことを1日たりとも忘れることはなかった。ただ、寂しさも含めて私は物足りなさを感じていたんだと思う。会えないのはもちろんのこと、抱き合っても最後までいくことはなく、「快感」さえ未だ経験したことがなかった。それを初めて教えてくれたのは先生ではなく・・・彼。
 
 どうして私は先生を忘れられないんだろう、彼を好きになることができないんだろう。既に浮気まがいのことをしてる私が言えた立場ではないが、こんなにも尽くしてくれる彼を好きにならずに、何故わがままも甘えもできないような先生を恋人にしているんだろう。そう頭で考えはしても、簡単にうまくはいかない。やっぱり先生が好きなのだ。


「俺さ、ちーのこと好きだから。彼氏がいても、好きだから。」


 夏の終わりも近いある日、彼がついに想いを打ち明けてくれた。


「でも、今は会えるだけでいいけど・・・いつまでもこんな状態、続けてちゃだめだよな。」


 先生という恋人がいることを彼は知っている。それを知りながら、今まで2人でデートを重ねてきた。さすがに良くないと気づいたのだろう、私も同じことを考えていた。だけど、自分ではどうすることも言い出すことさえできなかった。

 決断しなければならない時がいずれ来るとはわかっていた。どちらかに決めなきゃならないと。


「うん、わかってる。少し考えさせて。」


 数日後に先生とのデートを控えていた。答えはもう自分の中で出かかっている。その答えを口に出せる勇気をもらうためにも、先生に会いたいと思った。

 

  <続く>