『会いに行ったらだめだ、絶対に後悔する日が来る。不倫に足を踏み入れるなんてこと、しちゃいけないんだ。』


 何度も何度も自分に言い聞かせ、友達の意見にも耳を傾け、散々悩んだ挙句にこう決断した。


 もちろんまだ未練はある、忘れられない想いもある。出来ればもう一度会って話をしたい。だけど、これ以上自分の気持ちに従って行動することは出来ないと思った。今は良くても、いずれは何らかのリスクを背負ってしまうに違いない。


 それに、自分の精神的な部分へも多大な影響力を及ぼしかねない。相手の奥さんが気づく事だって大いに有り得る。そうやって常に誰かの目に怯えながら逢瀬を重ね、未来のない恋を耐え切るのは難しいと思ったのだ。このままずるずると関係を続けていけば、先生から離れられなくなる、とも考えた。


 人生経験の浅い16歳の私にとって、「不倫」というものが一体何処まで深いのか想像がつくはずもなく・・・知識も経験もないまま、未知の世界へ飛び込む勇気など到底なかった。「結婚していた」という真実を聞かされただけで大きなショックを受け、高校生活に対してやる気が失せているのに、これ以上のことが起こったら・・・自分は、狂ってしまうだろう。


 この決断が自分にとって正しいのかはわからない。


 しかし、目の前の様々な感情から逃れるには、こうするしか方法が思いつかなかったのだ・・・。


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 別れる時くらい直接会って話をしたかったが、この前の先生の様子では無理矢理押し倒され兼ねないので、電話で済ませることにした。きっぱり断れるくらいの自信があればまだ良かったのだが、今の自分ではそのまま流されそうな気がしてしょうがない。やむを得なかった。

 そして、とうとうその日がやってきた。

 決心が変わらぬうちに、学校の帰り道で先生の携帯へ電話を入れることにした。相手が相手がだけに、家で電話をするのは気が引けたからだ。折角今まで付き合いがばれないよう細心の注意を払ってきたのに、ここにきて親にばれてしまっては元も個もない。余計な心配をかけさせたくはなかったし、何よりこれは自分の問題なのだから。

 小雨がぱらつく街中を通り抜け、路地裏にあるとあるビルの前で立ち止まった。周りにはほとんど人がいない。ここなら大丈夫だろう。

 意を決して、携帯を開き番号をプッシュした。


<続く>