携帯の発信音が鳴り響いている間、私の心の中では様々な想いが錯綜していた。
どうしてこんな事になってしまったんだろう。
どうしてこんな辛い想いをしなければならないんだろう?
私はただ、先生が好きだっただけなのに。
ずっと一緒にいられればそれで良かったのに・・・
本当は、別れたくなんかないよ。
涙が溢れそうになるのを懸命に堪えた。もう、自分でも悲しいのか悔しいのかさえわからない。確かなのは、ここへきて私は未だに先生への未練を引きずっているということ。やっとの思いで突き放すことを決心したのに、またもや迷いが生まれてしまう。
『このまま、電話が繋がらなければ・・・』
つい、期待してしまう自分がいた。
しかしその時、発信音が途切れて電話口の向こうから声が聞こえてきた。まるで、自分は今まで起こった出来事など何も知らないと言うような口ぶりの。
「はい、もしもし。」
皮肉な事に、思い悩む原因であった先生のその“声”を聞いただけで目が覚めた。
『やっぱり駄目だ、引き返しちゃいけない。』
失うことの辛さに負けて今会いに行ったとしても、結局何の解決にもならない。あの頃のように、片想いだけ続けてればいいってもんじゃない。どんなに想ってたって、これから先生と一緒になることは叶いやしないのだから。
そう自分に言い聞かせて、ようやく己を取り戻すことが出来た。
「今日は早く終わったんですか?部活。」
この時間帯に先生が一発で電話に出るのは珍しかったので、思わずこう聞いた。
「ううん、今日は振り替え休日で学校は休みなんだよ。」
ふうん、そうなんですかと言いかけた時、こちらの返事も待たないで先生は続けて言った。
「だから、今学校に1人なんだ。」
来た。その一言を聞いた時素直にそう思った。相手に気づかれないよう、やや抑え目にため息をつく。ここからが本当の正念場なんだ。
「・・・そうなんですか。」
返す言葉が見つからず、ついそっけない返事をしてしまった。しかし先生はそれを気にする様子もなく、更に直球を投げてきた。
「今から会おう。」
<続く>