高校受験の日。私は推薦を落ちてしまった為、一般受験を受けざるを得なくなった。しかし「推薦落ちた人は一般で受かる」というジンクスを噂で聞いたのもあり、また彼の存在もあったので落ち込むことなく今までちゃんと勉強することが出来た。後は、本番で全力を出し切るのみ。
当日、受験者の多い学校には学年から引率の先生がついてくるのだが、残念ながら私が受ける学校の引率は彼ではなかった。でも大丈夫、実は前の日先生が朝に会いに来て「頑張れ。」と励ましの言葉をくれたから。
そして・・・
中学校の卒業式。
高校の合格発表は次の日に控えている。みんなドキドキしながら卒業だ。結果が気になって卒業式どころじゃないのかと思えば、殆どの人が目に涙を浮かべていた。
私はというと・・・卒業式が終わってもちっとも涙なんて出てこなかった。いくら「会えたらいいね」と言われても、当然これから先生とは今までのように会えなくなるのに。寂しくなるはずなのに。
何故涙が出なかったのか、その理由は自分でもよくわかっていた。中学は本当に自分の中で辛い時期だったからだ。楽しかったことも多々あったし、先生と出会えたことに関してはよかったと思っている。でもそれ以上に辛かったのだ。たぶん彼の存在が大きかったからこそ今までやってこれたと言える。三年間通った思い出の中学と別れるのは確かに寂しいけれど、安心感の方が勝っていた。
そんな卒業式の日にも、いいことがあった。式が全て終了し、最後のホームルームも終わって卒業生全員で玄関外にアーチを作って並んでいる後輩、先生方や保護者のところへと行った。彼はクラスの担任を受け持っていなかったため、予め玄関に並んでいた。
彼は生徒ではないので、卒業式にありがちな「第二ボタンをもらう」ということができない。それならば・・・と私なりに前から憧れていたことを実行した。
「あの、先生。」
私は職員玄関の前に立っている彼に声を掛けた。
「一緒に写真撮ってもらえませんか?」
普段は頼めないようなこと、それは一緒に写真を撮ることだ。卒業式ならみんな他の先生達と一緒に写って撮ってる人が多いから、頼んでも怪しまれないと踏んだのだ。
「いいよ。」
あっさり先生はオーケーしてくれた。やった、これで先生の写真が持ち歩ける!
と喜びに浸っていたら、前に同じクラスだった友達がこっちにやってきてこう言った。
「何々、先生と撮るの?私も一緒に写りたい!」
『邪魔すんな。』
なんて当然いえるわけが無い。私は心の中で泣きべそをかきながら渋々承諾した。
「あ、ちょっと○○○に渡したいものがあるんだ。」
写真を撮り終えて先生が私に声をかけた。何だろう・・・そういえば昨日はホワイトデーだったからお返しかな?と、想像していたら、先生は後ろからカバーの掛けられた本と、小さなお菓子を取り出した。
「はい。」
私だけか!?とその時喜んだものの、後から先生の方を見たら他の人にも渡していたのでショックだった・・・。
<続く>